2025年3月の歌舞伎座は、三月大歌舞伎通し狂言「仮名手本忠臣蔵」と銘打って、歌舞伎座では12年ぶりに「仮名手本忠臣蔵」が通しで上演されました。
しかもダブルキャストで、片岡仁左衛門、尾上菊五郎、中村梅玉、中村歌六といった国宝クラスの方々から、中村勘九郎、尾上菊之助、尾上松緑、片岡愛之助ら働き盛りの世代、尾上松也、坂東巳之助、尾上右近、中村時蔵、中村隼人といった若手などなどが、一つの舞台を創造する様を拝見できるまたとない機会となりました。
チケットはあれよあれよという間に売れていき、早々に売り切れの表示となる日程もありました。
Bプロ千穐楽の3月26日に昼夜通しで拝見できる幸運に恵まれましたので、感想や思ったことをまとめておきたいと思います。
通し狂言仮名手本忠臣蔵
口上人形配役読み上げ
やはり口上人形による配役の読み上げは高まりますね。
Aプロとは違う方がなさっていたようで、声も動きの少し違っていましたが、お芝居への期待感がググっとアップします。
大序
鶴岡八幡宮兜改めの場
舞台の上には、人形の状態に扮する役者が居並びます。
足利直義(扇雀)、高師直(芝翫)、塩谷判官(菊之助)桃井若狭之助(尾上右近)、顔世御前(時蔵)。
扇雀直義の人形に魂が宿る瞬間のパチっ目が開くところが好き。
上品だけど、力があって体温が感じられるような直義の幕開きのセリフ、昼夜ともに安心して聞けました。
芝翫師直は憎たらしさの上に圧の強さも感じられ、松緑師直の屈折した憎たらしさと違って重さがある憎たらしさで、近くにも寄りたくない感じ、
こんなのに横恋慕される時蔵顔世には同情しちゃう。
兜改めが終わって、判官らが引き上げていくときに菊之助判官がさりげなく妻の顔世をみやるところ、それを受け止める顔世時蔵のもたらす空気感、ふたりの愛の深さがじんわりと
こんなに素敵で品があって美しい旦那の菊之助判官の妻なんだから、どんなにあんたが横恋慕しようとも脈はないっちゅーの。
そして、舞台に残る師直と顔世、芝翫師直が恋文を渡すところは、
キャラクターや立場のコントラストもあり、
一度は戻した恋文を受け取らざるを得ない圧と時蔵顔世のにじみ出る色気に哀しさを感じた。
三段目
足利館門前進物の場
桃井若狭之助(尾上右近)端正で見た目もいいんだけど、サイズ感が・・・
でかい師直と並び立つと大人と子供に見えてしまって、、、
逆に、おかるや顔世で観たかったなと、
足利館松の間刃傷の場
師直の家来、鷺坂伴内(橘太郎)が面白い。
Aプロの時の伴内(松之助)も面白かった。
でも、やり方がちょっと違っていて、それはそれで興味深い。
道行にも一力茶屋のところでも伴内は出てきますが、私の中ではあまり結びついていなくて道行のところの道化者としてしか認識できてなかったのです。
通しで観たことで結びつきました。
部下の加古川本蔵が贈った賄賂のおかげで、「師直を斬る」気でいた若狭之助が事なきを得、その反動で刃傷に至ってしまう判官の運命のいたずらというかなんというか、
しかも、自分の愛欲のために言いつけを守らずに、騒動のトリガーである「色よくない返事の文箱」を届けてしまう腰元のおかる。
判官が饗応役という大きな勤めを果たすためには、師直の指導が不可欠。
そのお役目を終える前に色よくない返事を届けたら、もちろん顔世からの指示は役目を終えてから渡すようにだったのに、恋人の勘平に合いたいがために先に渡してしまうおかる。
持つ部下の違いでこんなに結果が違ってしまう。
私はこの件に関してはおかるを許せない。
自分のものにできると信じていた顔世からの拒絶の返事、そりゃ怒りも爆発しますわな。
いよいよ、鮒侍とまで罵倒され、
淡々と青い炎が燃えるような菊之助判官の怒り、それが頂点に達するともう我慢ならんという感じの大爆発。
斬り付ける判官、後ろから羽交い絞めにして止める加古川本蔵(橘三郎)
その隙に逃げる師直。
判官が不憫すぎて、泣ける。
四段目
扇ヶ谷塩治判官切腹の場
殿中で刃傷を起こした判官には、領地没収と切腹の命が下り、石堂馬之丞(彌十郎)と薬師寺次郎左衛門がこれを伝えに来る。
石堂は、職務に忠実でありながら人情もある人で、彌十郎石堂も判官の無念を慮った言葉が染み込んでくるようで、それを分断する彦三郎薬師寺のドカドカした様子も、この人もまた職務に忠実。
大星力弥(莟玉)が行儀が良くて好き。
由良之助の到着を確認したり、切腹用の刀(九寸五分)を用意したり、やらなきゃならないことはたくさんあり、こまごま動き回るところが品が良い。
凛とした立派な最期を遂げた菊之助判官が美しく前のめりに倒れる。
そこに到着する由良之助(松緑)の花道の出、何度か膝をついて崩れ落ち前に進めない様子に主君を守り切れなかった後悔の念が感じられて、
石堂が「近こう、近こう」と促しているのに前に進めないもどかしさ、複雑な由良之助の心。
判官と最期の言葉を交わし、手に握った九寸五分をはずすところ、優しく包み込むような大きな手が愛にあふれていて、温かい。
(こんな芝居ができる松緑と菊之助が不仲であるわけがない)
判官が絶命し、顔世御前と腰元らも入室してお焼香を行うシーン。
女性陣は全員白い着物です。
勘三郎さんのご葬儀の時に奥様が白い着物を着ていらした意味がしっくりと来ました。
この白い着物姿の顔世御前、未亡人の色気というかなんとも言えない雰囲気が漂ってきて、判官が彼女の元へ帰って来たんだなと、そんなことを思いました。
扇ヶ谷表門城明渡しの場
血気にはやる若侍たちを説き伏せて、菩提寺に向かわせる由良之助、
独り館の門前で、仇討ちへの思いを心に誓う松緑由良之助
由良之助は愛の人なんだなぁ・・・
浄瑠璃
道行旅路の花婿
主君の一大事に二人で「色に耽っていた」早野勘平(愛之助)と腰元おかる(萬壽)が、おかるの実家のある京都の山崎へ落ち延びていく様を描いた舞踊の演目。
勘平は主君の大事に職場を放棄し、城にも入れてもらえないままの自分を悔いて切腹しようとしますが、おかるに宥められての二人旅、
寂しげな勘平と、ふたりで故郷に帰れることがどこか嬉し気なおかる。
萬壽おかると愛之助勘平は、熟れ切ったカップルという感じで、特に萬壽さんは若くて美しいし、愛之助との年齢差も感じさせないくらいの可愛さ、色気を備えていて、
いやもうごめんなさい。
このおかるがいるから、勘平のためなら何でもできる
お金のために身を売ることもできる、由良之助の身請けの話を受けることもできる、
一途な勘平LOVEが説得力を増すんですね。
そのおかるに横恋慕する鷺坂伴内(坂東亀蔵)、横恋慕まで主君に忠実なのね。
巳之助伴内とは違った味わいで、やはりちょっとおっさんが入ってる方がらしくていいですね。
浅草の玉太郎伴内含めて、今年に入って3人の伴内を観たわけですが、やがて玉太郎君もあんな風になってしまうのかしら・・・
まとめ
松緑さんの由良之助っぷりが、後輩を思いやり愛のある言葉を投げかける松緑さんの兄貴な感じと重なって、良き由良之助だなと思いました。
存在感も大きいし、もっともっと磨き上げられていくんだろうなと期待が高まります。
仁左衛門さんに教えを受けられたとのことですが、
今回のダブルキャストでの通し上演には、芸の伝承という大きな要素もあるんだなと実感した、Bプロ昼の部でした。
芝翫さんの由良之助も観てみたいと思うのでした。


コメント