2024年六月の歌舞伎座、夜の部は松本幸四郎を中心に上演される「裏表太閤記」は、三代目猿之助(二世市川猿翁)による1981年の初演以来、43年ぶりに上演されるということで注目を集めました。
『太閤記』というだけあって、豊臣秀吉がどうやって天下人と呼ばれるまでに至ったのかというサクセスストーリーを描く表の部分と、そのライバル明智光秀らの裏の部分のストーリーも描かれています。
当時は、一つの演目を昼夜通しで上演されたとのことで長いストーリーだったそうです。
通し狂言というのは、ひとつの演目を序幕から大詰めまですべての幕を通しで上演するというもので、再演となる今回は内容を練り直して、夜の部だけで成立するように再構成されたのことです。
初日を観て来ましたので、あらすじや感想をまとめておきます。
千成瓢薫風聚光 裏表太閤記
(せんなりびょうたんはためくいさおし うらおもてたいこうき)
序幕
第一場 弾正館の場
明智光秀の父である悪党の松永弾正(市川中車)が織田信長の軍に包囲され、息子にお家の再興を託して自ら火を放ち命を絶つというところから始まります。
弾正は、切腹すると見せかけては信長の使者を切り殺し、自分の家来である四天王但馬守(市川青虎)に「たとえ3日でもいいから天下を取るように」と息子の明智光秀に伝えて欲しいと告げ、死んで行くのです。
中車さんの悪人ってピッタリはまる気がするな、しかも極の付く方。
青虎さんは昼の部も含めて何気に奮闘公演、しかも演出補佐まで勤めて、
第二場 本能寺の場
織田信長(坂東彦三郎)が本能寺に来た際に体調不良の住職に代わり出迎えるのが僧日計四天王但馬守(市川青虎)が明智光秀(尾上松也)との対面を取り持ちます。
明智光秀は、秀吉に仕える事を命じられるもそれを拒否していたため、信長から良くは思っていなかったため、森蘭丸(中村京純)に命じて光秀を討ち据えさせたり、馬盥(ばだらい)で酒を飲めと命じたり、現在の領地を召し上げたりとやりたい放題。
坂東彦三郎さんの織田信長が憎い!
尾上松也さんの明智光秀、青い炎のようにクール!
座った席の関係でほとんど観えなかったのですが、明智光秀に恥辱の限りを尽くす憎々しさと光秀の口惜しさが声だけで伝わってきました。
(織田信長が序盤だけでいなくなっちゃって悲し)配信で穴があくまで観る予定。
森蘭丸(中村京純)カッコいい!!動きもシャープ!!
切腹すると見せかけた光秀が謀反の本心を明かし、明智軍が攻め入り、信長は覚悟を決め自ら切腹
織田信長ここで終了。彦三郎さんの出番も終了(T_T)
第三場 愛宕山登り口の場
織田家の根絶をたくらむ明智光秀家の家臣の十河軍平(市川猿弥)が、織田信長の嫡男信忠と、光秀の妹のお通を探しにやって来る。
信忠とお通は愛し合っており、三法師という男児をなしている。
第四場 愛宕山山中の場
光秀の妹のお通(尾上右近)は織田信忠(坂東巳之助)との間に三法師という男子をもうけ、腰元達も交えて酒宴を開き楽しいひと時を過ごしています。
そこに現れる、織田家の根絶をたくらむ明智家の家臣の十河軍平(市川猿弥)。
猿弥さんシュッとしています。
酒宴に興じる振りをして、忠信たちを襲う。
お通に我が子を託し、わが身もろとも軍平と共に死に挑む信忠。
織田信忠の坂東巳之助さん、酒宴のシーンの貴族のようないいところの坊ちゃん感と十河軍平が襲撃してくるところでのキリっとした切り替わりの顔つきが凄いなと、戦い用に着衣を改める様が素敵でした。
尾上右近さんの女方、やっぱり美形だなぁ。
そして赤子を抱いての立ち廻りや赤子の扱い方は母性が溢れていて、6月からずっと母だもんね。
二幕目
第一場 備中高松塞の場
豊臣秀吉(松本幸四郎)による水攻めを受ける備中高松城の軍師鈴木喜多頭重成(松本幸四郎)。
幸四郎さんは秀吉、鈴木喜多頭重成、孫悟空と大忙し。
戦況は、94歳の老兵出井寿太郎(市川寿猿)までもが戦いに駆り出されることを覚悟するくらい厳しいもので、鈴木喜多頭重成は主君の命を守るためには和睦の道しかないと考えています。
そこで、息子孫市(市川染五郎)に自分の首を討って、秀吉に差し出すことで起死回生の策に打って出ます。
それを止めたい母親の浅路(市川笑三郎)と関の谷(市川笑也)
笑三郎さんは母親役なので白髪の老け役、笑也さんは妻役で打掛姿も本当に美しい。
何とか考えを改めさせようと二人して説得にかかる様子が美しすぎて泣ける。
そんな二人を打ち据えて、何度もためらう孫市に自分の首を打たせる喜多頭。
このあたりの染五郎孫市がなんともイイ!
先代の染五郎時代を含めても今が一番「染五郎イイ!」を連発している気がする。
孫市が父親の首を秀吉のところで持って行こうとするところに、喜多頭から早変わりで現れる幸四郎秀吉、さすが歌舞伎!
第二場 山崎街道の場
秀吉は、喜多頭からの和睦の申し入れを受け秀吉の軍師としての覚悟を讃え光秀を討つために都へと向かい、方や明智光秀軍は、お通と三法師の行方を追っています。
第三場 姫路秀吉陣所の場
無事に秀吉に助けを求めたお通は、秀吉、孫市と共に船で堺に向かいます。
第四場 姫路海上の場
姫路を後にした一行は、道中でひどい嵐に会いその嵐を鎮めるために三法師を秀吉に預け、ヤマトタケルの弟橘姫の伝説に倣い自らの命を海の神ささげ、海に身を投じる。
初演時の事なんて知らないから、澤瀉者にとっては「ヤマトタケル」伝説が出てきたときは、鳥肌が立ちました。
今年は、「ヤマトタケル」yearだし、ギュンギュンに心を持って行かれました。
実際、船の感じも波の感じもぽいなぁと思って観ていたので、お通さんが入水するときは本当に弟橘姫のようで、落涙
秀吉はその犠牲を讃える大綿津見神(松本白鸚)からの加護を受け、さらに神通力で船が大空を飛ぶ天の鳥船となり、琵琶湖に到着。
さすが歌舞伎、スペクタクル!!
第五場 道中の場
光秀は信長の残党を攻め滅ぼし、天下を手中に収めるためにいよいよ出陣する。
この戦闘シーンが凄い!
1階席に役者が下りてきて、お芝居が繰り広げられるのは観たことはあるけれど、
兵士がドドドド、ダダダダと通路を駆け巡り戦闘シーンが繰り広げられ、それが2階席にも3階席にも及ぶのは初めて観た!
歌舞伎座の通路という通路、ドアというドア使いまくり!凄い臨場感!
第六場 大滝の場
次に幕が開くと、本水、大滝の場での戦いのシーン。
幸四郎秀吉、松也光秀、染五郎孫市の3人が、本当の水(本水)を用いた滝のセットの中で戦う。
滝の中だから3人は水浸し、客席にも水をバシャバシャとサービス、松也が足を滑らせたりと死闘を繰り広げ、光秀を討ち果たすという大注目のシーン。
水の音も量も大迫力で、松也さんは去年も本水だったなぁと思い返し、風邪などひかぬよう滑ってけがなどしないように願いながら、光秀の死を見届けました。
大詰
第一場 天界紫微垣の場
最後の幕では、天界での孫悟空(松本幸四郎)の冒険が描かれ、それが「猿」と呼ばれていた秀吉の夢だったという趣向で、
天空で暴れまわる孫悟空に手を焼いた天帝(市川猿弥)と大后(市川門之助)が、太閤の官位を授け、金の瓢箪を与え、日本に派遣します。
猿弥天帝と門之助大后には既視感あり、伊吹山の老山神かと思いました。
孫悟空は猪八戒(市川青虎)と沙悟浄(市川九團次)と共に、宙乗りで日本へと飛んで行きます。
夢の中で孫悟空となって空を飛ぶ秀吉。
いよいよ、金の瓢箪を持っての宙乗り、幸四郎孫悟空はかっこよく宙乗りで飛翔するも、青虎猪八戒と九團次沙悟浄の宙乗りでのアクロバティックな動きがあって、猪八戒だけが2階席にぶつかりそうになりながらも無事に鳥屋へ、めちゃめちゃ楽しいシーン(*^^)
第二場 大坂城大広間の場
大詰め、花道すっぽんから市川中車がせりあがって「大喜利所作事ご覧に入れまする(大意)」のご挨拶があり、大阪城の大広間へ、
北政所(中村雀右衛門)と淀殿(市川高麗蔵)徳川家康(市川中車)が現れ豊臣家の繁栄と天下泰平を願って三番叟を舞始めます。
中車さんの三番叟、少しだったけどほろりと来てしまった。
この人の長い長い1年が、この芝居で報われたように感じた。
さらに、前田利家(尾上松也)、加藤清正(坂東巳之助)、毛利輝元(尾上右近)、宇喜多秀家(市川染五郎)も現れて三番叟を舞始め、そこに豊臣秀吉(松本幸四郎)も加わり大団円。
見事にうるさい迄の三番叟でした。(絶賛してます)
初日だからか、やる気と誰にも負けないという強気が入り混じったこの世代ならではの三番叟だったと思う。
まとめ
先ず、澤瀉者としてはこういう状況下の7月という月に、いろんなお家の方々が打ち揃うて、三代目猿之助の狂言を復活させて上演するということが実現したことが、嬉しく有難くて仕方がない。
座組が発表された時点で、涙がちょちょぎれました。
そしてこの芝居を見ているであろう團子ちゃんは、舞台側に行きたくてうずうずしていたんじゃないかと思いたい。
いやそうでなくちゃ、だっていっくん(染五郎)があんなに躍動し物語のキーマンを勤めているんだもの、さらに本水の立ち廻りだし!!
中車の松永弾正と、徳川家康、そして市川中車としての口上と観ていて、歌舞伎役者になったんだなぁとしみじみ思った。
この一年の苦悩というか、いろんなものに感情移入しすぎて三番叟のシーンでは涙がこぼれました。
全体を通して、Speed(スピード)、Spectacle(スペクタクル)、Story(ストーリー)のスーパー歌舞伎のスリーSが揃っているなと強く感じ、48年もお蔵に入れていたのはもったいないなぁと思いつつ、このタイミングでの復活のきっかけを作ってくれた人(幸四郎さん?)に感謝してもしきれないなと思ったのです。
長文にお付き合い下さりありがとうございました。


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